【2025年8月18日 三重県松阪市・女子大生死亡事故】なぜ「乗せてもらっただけ」でも罪になるのか?『飲酒運転同乗罪』の重い責任

1. 運転手だけではない、もう一つの「罪」
先日の記事で、三重県松阪市で起きた死亡事故の続報と、運転手にかけられた「危険運転」の容疑について解説しました。
しかし、この事件には、私たちがもう一つ、真剣に向き合わなければならない、非常に重いテーマが隠されています。それは、「同乗者の責任」です。
「運転していたわけではないのに、なぜ?」
「ただ、乗せてもらっていただけじゃないか」
そう思う方もいるかもしれません。しかし、法律は、飲酒運転という悪質な行為に対して、運転手だけでなく、そのハンドルを握らせてしまった周りの人間にも、厳しい目を向けているのです。
今回は、この痛ましい事件をきっかけに、「飲酒運転同乗罪」という、あまり知られていない、しかし非常に重要な罪について、解説していきます。
2. 事故の基本情報(報道に基づく現時点の事実)
- 発生日時: 2025年8月18日 午前3時過ぎ
- 発生場所: 三重県松阪市黒田町
- 関係者:
- 運転手: 19歳男性(危険運転致死傷などの疑いで逮捕)
- 同乗者: 19歳女性(死亡)、18歳男性(重傷)
- 捜査状況: 運転手は飲酒運転を認めている。
3. このニュースの本当の論点:「飲酒運転同乗罪」とは何か?
私たちの社会には、道路交通法という、交通社会のルールを定めた法律があります。その第65条第4項には、こう書かれています。
何人も、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運送して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が(飲酒運転をしてはならないという)規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。
少し難しい言葉ですが、要は「運転手が飲んでいると知っているなら、その車に乗せてもらうな」ということです。これが、いわゆる「飲酒運転同乗罪」です。
- ① 警察が立証すべきこと:「知っていた」という事実
- 今回の事故で、同乗していた方々がこの罪に問われるかどうかは、今後の捜査を待たなければ分かりません。
- しかし、一般論として、警察がこの罪を立証するために捜査するのは、「同乗者が、運転手の飲酒を知っていたかどうか」という一点です。
- 例えば、
- 事故の前に、同じ場所で一緒にお酒を飲んでいたか?
- 運転手の言動(呂律が回らないなど)から、飲酒は明らかではなかったか?
- といった客観的な事実があれば、「知らなかった」という言い訳は、まず通用しません。
- ② 保険の世界でも問われる「同乗者の過失」
- 刑事罰とは別に、保険の世界でも、同乗者の責任は厳しく問われます。
- もし、運転手の飲酒を知りながら同乗していたと判断されれば、それは「好意同乗減額」の対象となり、亡くなったり、大怪我をしたりした同乗者が受け取るべき賠償金が、大幅に減額されてしまうのです。
4. あなたの身を守るための「鉄則」
【鉄則①】断る勇気は、あなたと友人の未来を守る
- 「せっかくの楽しい雰囲気を壊したくない」「断ったら、関係が悪くなるかも…」。その一瞬のためらいが、取り返しのつかない悲劇を生みます。
- 飲酒運転の車に同乗を断る勇気は、運転する友人を犯罪者から守り、あなた自身の命と未来を守る、何よりも尊い「友情」なのです。
- 【鉄則②】運転する側の、本当の「優しさ」とは
- もしあなたがハンドルを握る側なら、絶対に、飲酒した状態で友人を車に乗せてはいけません。「家まで送っていくよ」という言葉は、優しさなどでは断じてなく、友人を「犯罪の共犯者」に引きずり込む、悪魔の誘いなのです。
5. おわりに
今回の報道では、警察が同乗者について捜査しているという事実は、まだ確認されていません。
しかし、この事故が、私たちに「飲酒運転同乗罪」という重い現実を突きつけていることは、間違いありません。
「乗せてもらっただけ」。
その安易な考えが、友人の人生を狂わせ、自分自身の命を危険に晒し、そして、残された家族を、二重、三重に苦しめる。
この悲劇の連鎖を断ち切るために、私たち一人ひとりが、この問題を「自分ごと」として、真剣に考える必要があるのだと、強く思います。