【会社の車の事故】社長の個人資産も差押え!?代表取締役が責任を負う、危ない会社の共通点

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💡 この記事を読めば分かること

  • なぜ、会社の車の事故で、代表取締役「個人」の責任が問われることがあるのか
  • 社長個人が責任を負う「危ない会社」の、具体的な特徴とは
  • 従業員のマイカー事故でも、社長個人の責任が問われるケース

1. 「会社と社長は別人格」…その常識、本当に通用しますか?

法律上、「会社(法人)」と「社長(自然人)」は、全くの別人格として扱われます。
そのため、会社の車が事故を起こした場合、その賠償責任を負うのは、あくまで法人である「会社」であり、代表取締役である社長「個人」の資産が差し押さえられるようなことは、原則としてありません。

…そう、原則としては。

しかし、あなたの会社が、ある「特別な状況」にある場合、この原則は簡単に覆ります。
そして、会社の車の事故の責任が、社長であるあなた個人の肩に、重くのしかかってくる可能性があるのです。

今回は、この「会社」と「社長個人」の境界線が曖-昧になる、恐ろしいケースについて解説していきます。

2. 社長個人が責任を負う「危ない会社」の共通点

では、どんな場合に、社長個人の責任が問われてしまうのでしょうか?
それは、あなたの会社が、実質的に「社長の個人事業」と変わらない状態にあると見なされた場合です。

裁判所は、形式上の法人格だけでなく、その「実態」を厳しく見ています。
そして、会社と社長が一体であると判断されれば、社長個人も、会社と同じように運行供用者責任(自賠法3条:人身事故の被害者に対する、法律上の特別な賠償責任)
を負うことになるのです。

【社長個人の責任が『認められた』ケース】

会社Aは、実質的に社長Yさん一人の経営に委ねられていました。いわゆる「一人会社」です。その会社Aが所有する車が、無車検・無保険の状態で死亡事故を起こしてしまいました。

裁判所は、会社Aの責任はもちろんのこと、「会社と社長Yは実質的に一体であり、車の運行はY個人の意向が強く反映されている」として、社長Yさん個人の責任も認めました。(東京地判H6.11.8)

このように、会社が「法人格の抜け殻」に過ぎず、実態が社長の個人商店と変わらないと判断された場合、「会社と社長は別人格」という盾は、簡単に突き破られてしまうのです。

3. 従業員の「マイカー事故」でも、社長の個人責任が問われる!?

さらに恐ろしいのは、従業員が「マイカー」で起こした事故ですら、社長個人の責任が問われる可能性があることです。

これは、社長が「代理監督者(民法715条2項)」に該当すると判断された場合です。
簡単に言うと、「社長が、会社に代わって、従業員の選任や監督を、現実に、直接行っている」と見なされた場合、会社と同じように、従業員の事故の責任を負いなさい、というルールです。

【社長個人の責任が『認められた』ケース】

従業員20名程度の、社長Yさんが実質的に経営する運送会社。その従業員が事故を起こしました。

裁判所は、「この規模の会社であれば、社長Yさんが、会社に代わって現実に従業員を監督していたと推認される」として、社長Yさん個人の代理監督者責任を認めました。(東京地判S39.3.30)

特に、中小企業の経営者の方は注意が必要です。従業員一人ひとりの顔が見え、社長が直接指示を出すことが多い環境では、この「代理監督者」としての責任を問われやすい傾向にあります。

📣 今日のポイント

  • 原則として、会社の車の事故で社長個人の責任は問われない。
  • しかし、会社が実質的に「社長の個人事業」と変わらない状態だと、社長個人も運行供用者責任を負う可能性がある。
  • 中小企業など、社長が従業員を直接、現実的に監督している場合、従業員のマイカー事故でも、社長個人の「代理監督者責任」が問われることがある。
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はちわれサクラ
はちわれサクラ
万年巡査長
元・警察官 × 損害保険会社の事故調査員。 ひき逃げ、死亡事故から保険金の不正請求まで、様々な交通事故の調査を経験。 法律の条文ではなく、事故の「現場」を語ります。「元・中の人」の実務目線で、リアルな情報だけを解説。 (現在はセミFIRE中)
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