ニュース解説

【2025年8月13日明石市・高校生死亡事故】なぜプロはまず「信号」を見るのか?

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1. 他人事ではない、国道に潜む悲劇

また、本当に胸が痛むニュースが飛び込んできました。兵庫県明石市の国道で、右折する乗用車と直進してきたバイクが衝突し、18歳の男子高校生の尊い命が失われました。 将来のある若者が、日常の道路で命を落とす。これほど悲しいことはありません。

「バイクに気づくのが遅れた」

逮捕されたドライバーは、こう供述していると報じられています。あなたもこのニュースを見て、「なぜ気づかなかったんだ」「バイクは危険だな」…様々なことを感じたのではないでしょうか。

実は、このような「右折車」と「直進車」による事故(右直事故)は、全国の交差点で後を絶ちません。そして、そこには警察や保険会社が過失を判断する上で、非常にシビアに見ている「いくつかのポイント」が存在するのです。

今回はこの事故を題材に、一見単純に見える交通事故の裏側で、プロが一体どこを見ているのか。その「リアルな視点」を解説していきます。

『明石市の国道で車とバイクの事故 バイクの男子高校生が死亡』サンテレビニュース 2025年8月15日配信

2. 事故の基本情報(報道に基づく現時点の事実)

  • 発生日時: 2025年8月13日 20時ごろ
  • 発生場所: 兵庫県明石市硯町1丁目(国道沿いの信号機がある交差点)
  • 関係者:
    • 四輪車: 64歳男性(東から北へ右折)
    • 二輪車: 18歳男性(西から東へ直進、搬送後に死亡)

3. 過失割合を根底から覆す「信号の色」

さて、ここからが核心です。
私が警察官や損保の調査員としてこの事故の報告を受けたら、他のどんな情報よりも先に、まず間違いなくこの一点を最優先で調査します。

「双方の信号は、一体何色だったのか?」

なぜなら、この信号の色次第で、過失割合が天と地ほど変わってしまうからです。具体的に見てみましょう。

  • もし【双方が青信号】だったら?
    • この場合の基本割合は【四輪車85:二輪車15】となります。
  • もし【四輪車が右折矢印信号で、バイク側が赤信号】だったら?
    • この場合、過失割合は原則として【四輪車0:二輪車100】に大きく変わります。

これほどの差が生まれるからこそ、我々プロはまず「信号の色」を確定させることに全力を注ぐのです。特に今回のように、片方の当事者が亡くなられている場合、「死人に口なし」という状況に絶対にならないよう、より一層、客観的な証拠の収集と分析を徹底します。

たとえ運転者が「自分は青信号だった」と供述したとしても、捜査機関がそれを鵜呑みにすることはありません。その供述が事実と合致しているかどうかを、客観的な証拠と照らし合わせて慎重に裏付けを取るのです。

  • ドライブレコーダーや周辺の防犯カメラ映像
  • 信号機のサイクル記録

これらの地道な捜査によって、まず「信号」という揺るぎない事実を認定していく。これが私たちの仕事の第一歩なのです。そして、それは我々損害保険会社も全く同じです。ご遺族にお支払いする保険金は、運転者の一方的な言い分で決まることは決してありません。警察の刑事記録などを精査し、客観的な事実に基づいて判断する。これもまた、私たちの重要な責務でした。

4. 信号の次にプロが見る、過失割合の「修正要素」

さて、ここからは仮に、これらの捜査の結果として「双方が青信号だった」と事実認定された、という前提で話を進めていきましょう。
この場合、基本割合は【四輪車85:二輪車15】となりますが、次に我々は、この基本割合を調整する修正要素」がなかったか、さらに調査を進めます。

  • ① バイクの「速度」はどうか?
    • 「バイクが思ったより速くて避けきれなかった」と主張するドライバーは多いです。もしバイクに明らかな速度超過があれば、それはバイク側の過失とされる重要な修正要素になります。
  • ② 四輪車の運転操作に「雑な点」はなかったか?
    • 典型的なのが「早回り右折」です。これは、交差点の中心の少し手前からショートカットするように曲がる運転のことで、対向車との距離や時間を見誤る原因となります。
    • ほかにも、右折の合図を出すのが遅れた、もしくは出していなかった「合図なし」といった不注意な運転操作が認められれば、当然、四輪車側の過失がさらに大きくなります。

5. あなたの身を守るための「鉄則」

この悲しい事故は、私たちに重要な教訓を教えてくれます。ドライバーもライダーも、以下の鉄則を心に刻んでハンドルを握ってください。

  • 【右折ドライバーの方へ】対向車は、あなたが見ているよりも“速く・近い”
    • 特に夜間、バイクのライトは一つしか見えないため、距離感や速度を錯覚しがちです。「まだ大丈夫だろう」という希望的観測は絶対に捨ててください。対向車が途切れるまで、焦らず待つ。その一瞬の余裕が、一生の後悔を防ぎます。
  • 【バイクのライダーの方へ】あなたは、相手から“見えていない”かもしれない
    • 交差点に進入する際は、「対向車は、自分の存在に気づかずに右折してくるかもしれない」という「かもしれない運転」を徹底してください。アクセルを少し戻し、いつでもブレーキをかけられる準備をしておくだけで、生存率は劇的に上がります。

6. おわりに

交通ルールは、守っているだけでは命を守れない時があります。ルールの裏にある「なぜ、そうなっているのか」という背景を理解し、相手のドライバーの心理や、起こりうる危険を予測すること。それこそが本当の意味での「安全運転」なのだと、私は思います。

今回の事故で亡くなられた高校生のご冥福を心よりお祈りするとともに、この記事を読んでくださったあなたのカーライフが、悲しい事故と無縁であることを心から願っています。

ABOUT ME
はちわれサクラ
はちわれサクラ
万年巡査長
元・警察官 × 損害保険会社の事故調査員。 ひき逃げ、死亡事故から保険金の不正請求まで、様々な交通事故の調査を経験。 法律の条文ではなく、事故の「現場」を語ります。「元・中の人」の実務目線で、リアルな情報だけを解説。 (現在はセミFIRE中)
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