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【2025年7月26日名古屋】通行トラブル 殺人未遂 

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交通事故でトラブル? 車のボンネットから振り落とそうとした殺人未遂容疑で22歳女を逮捕  2025年8月16日配信 メーテレニュース

事故の基本情報(報道に基づく現時点の事実)

  • 発生日時: 2025年7月26日朝ごろ
  • 発生場所: 名古屋市中区栄の路上
  • 関係車両:
    • 四輪車: 22歳女性 — 交通事故の後、歩行者が車の前に立ちふさがってるにもかかわらず車を発進させた。「殺意はなく、その時の記憶もない」と警察に供述
    • 歩行者: 男性 — 発進したボンネットへ。全治14日のケガ

この種の事故における一般的な論点

1. 交通事故か否か

 ここで問題になるのが交通に起因する事故なのか、女性が意思を持って車を急発進させたのかという点です。それによって対応する部署が交通課か刑事課で分かれると思います。
 今回のケースでは、殺人未遂容疑での逮捕という事実から、警察は単なる交通事故ではなく、故意の犯罪行為として捜査していることがわかります。
 

2. 殺人未遂罪の成立要件と立証課題

 殺人未遂罪が成立するためには、「人を殺そうとする故意(殺意)」があったことが必要です。本件では容疑者が「殺意はなく、その時の記憶もない」と供述していることから、以下の点が争点になる可能性があります:

  • 殺意の有無: 歩行者がボンネットに乗った状態で車を走行させた行為が、殺意を推認させる客観的状況といえるか
  • 記憶がないという供述の信用性: トラブル時の精神状態や、記憶喪失が一時的なものか
  • 動機の解明: 交通トラブルの内容や、発進に至るまでの経緯

 検察は今後、目撃者の証言や防犯カメラ映像などから客観的事実を積み上げ、殺意の立証を試みることになるでしょう。

3. 対人保険が故意免責?

 今回の交通トラブルに起因して、相手歩行者がケガを負っています。そうすれば被害者は自動車の運転手に治療費を求めたいところです。その場合、自動車側も治療費の対応を保険会社にしてもらいたくて連絡をしてくると思います。

 その時に問題になってくるのが、自動車保険の対人賠償責任保険の免責条項です。たいていの対人賠償責任保険の約款では契約者・被保険者の故意は免責(保険会社は保険金の支払い責任を負わない)とされています。

4.故意免責の考え方

 保険は偶然の事故によるリスクをカバーするものであり、故意による損害は保険制度の趣旨に反するため、一般的に免責とされています。

 本件のように殺人未遂容疑で逮捕されているケースでは:

  •  無罪となっても、民事上の「故意」と刑事上の「故意」の立証レベルは異なるため、保険会社が免責を主張する可能性がある
  •  刑事裁判で有罪が確定した場合、保険会社は「故意」を理由に支払いを拒否できる可能性が高い

5.被害者救済の観点

 被害者保護の観点から、自賠責保険には「他人の生命または身体を害する意図をもって運行に起因する事故を発生させた場合」を除き、運行供用者の故意による事故でも保険金が支払われる特例があります。しかし、この場合も:

  • 自賠責保険の限度額(死亡3,000万円、傷害120万円など)の範囲内での補償
  • 上記を超える損害については被害者は直接加害者に請求する必要がある

交通トラブル回避のために

 このような事件は、些細な交通トラブルが感情的対立に発展し、取り返しのつかない結果を招くケースが少なくありません。一般ドライバーとして心がけたいポイントは:

  • トラブルが発生しても冷静な対応を心がける
  • 相手が挑発的な言動をとっても、エスカレートさせない
  • 車という「凶器になりうる道具」を操作していることを常に意識する
  • どうしても解決できない場合は警察に通報する。

まとめ

 本件はまだ捜査段階であり、詳細な状況は明らかになっていません。しかし、交通トラブルがエスカレートして重大な刑事事件に発展するリスクを示す事例として注目されます。

 今後の裁判では、殺意の有無や記憶喪失の主張の信憑性が焦点となるでしょう。


注記: 本記事は公開された報道情報を基にした一般的な解説であり、特定事案の結論を示すものではありません。今後の公式発表や捜査の進展により内容が更新される場合があります。

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はちわれサクラ
はちわれサクラ
万年巡査長
元・警察官 × 損害保険会社の事故調査員。 ひき逃げ、死亡事故から保険金の不正請求まで、様々な交通事故の調査を経験。 法律の条文ではなく、事故の「現場」を語ります。「元・中の人」の実務目線で、リアルな情報だけを解説。 (現在はセミFIRE中)
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