【2025年8月26日 尾道市・バイク死亡事故】なぜトラックの「左折巻き込み」は無くならないのか?

1. 導入:また、防げたはずの命が失われた
またしても、あまりにも悲しい「巻き込み事故」のニュースが飛び込んできました。広島県尾道市で、大型トラックが左折する際に、左側を直進していた原付きバイクが巻き込まれ、運転されていた85歳の女性の尊い命が失われました。
「現場は見通しのよい直線道路だった」
この一文に、「なぜ、そんな場所で?」と、やるせない気持ちになった方も多いのではないでしょうか。しかし、これこそが「巻き込み事故」の、最も恐ろしい本質なのです。
今回はこの事故を題材に、なぜ、このような悲劇が後を絶たないのか。その背景にある、大型車特有の「死角」と「内輪差」という、2つの構造的な危険について、徹底的に解説していきます。
【事故】大型トラックに巻き込まれ…原付バイクの女性(85)死亡 運転手の男(31)を逮捕 【公式】HOME広島ニュース 2025年8月26日配信
2. 事故の基本情報(報道に基づく現時点の事実)
- 発生日時: 2025年8月26日 午前11時すぎ
- 発生場所: 広島県尾道市東尾道(市道)
- 関係者:
- 大型トラック(加害者側): 31歳男性(トラック運転手)
- 原付きバイク(被害者側): 85歳女性(死亡)
- 現場状況: 片側一車線の見通しのよい直線道路。トラックが左折する際、その左側を直進していたバイクを巻き込む形で衝突。
3. 事故現場に潜む、2つの「ワナ」
左折巻き込み事故の多くの原因は、運転手の確認不足にありますが、なぜプロの運転手でさえ、そのミスを犯してしまうのか。そこには、構造的な問題が潜んでいます。今回の事故に関しても、警察は今後、以下のような観点で原因の究明を進めていくことになるでしょう。
まず、大前提として、道路交通法では、左折する車は、あらかじめ道路の左側端に沿って通行する義務が定められています。
しかし、大型トラックは車体が大きいため、この原則を完璧に守ることが難しい場合があります。そして、まさにそこが、プロの運転手としての「責任の重さ」が問われるポイントなのです。
左端に寄せられないことで生まれる「隙間」に、バイクや自転車が入り込んでくるかもしれないと予測し、通常以上に注意を払うことこそが、プロに課せられた重い義務と言えます。
その義務を怠らせてしまう背景に、大型車が構造的に抱える、2つの「ワナ」があります。
- ① 見えない「死角」のワナ
- 大型トラックの運転席は非常に高い位置にあり、サイドミラーには、すぐ真横や、少し後方の低い位置が全く映らない、広大な「死角」が生まれます。
- つまり、運転手からすれば、真横にいるバイクは、まるで最初から存在していないかのように、文字通り「消えて」しまうのです。
- ② 迫りくる「内輪差」のワナ
- 「内輪差」とは、車が曲がる時に、後輪が前輪よりも内側の軌道を通る現象のことです。
- トラックのような車体が長い車ほど、この差は極端に大きくなります。運転手が「これくらいなら大丈夫だろう」と思って左折を開始しても、後輪は、バイクがいるスペースをえぐり取るように、ぐっと内側に切れ込んできます。
警察は今後、運転手がこれらの危険性を十分に認識し、プロとして求められる慎重な確認義務を果たしていたかどうかを、重点的に捜査していくことになるはずです。
4. あなたの身を守るための「鉄則」
⚠️ この悲劇の当事者にならないために
【四輪ドライバーの方】「いないだろう」ではなく、「絶対にいる」と思え
- 左折する際は、サイドミラーだけを信じないでください。必ず、あなた自身の目で、助手席の窓から真横や後方を振り返って確認する「目視」を、癖にしてください。「バイクは、必ず死角にいるかもしれない」という意識が、あなたを加害者から守ります。
- 【バイク・自転車に乗る方へ】大きな車の「真横」は、路上で最も危険な場所
- たとえ青信号で、あなたが直進する権利があったとしても、左折しようとしている大きな車の横に並ぶのは、自らワナに飛び込むのと同じです。
- 大きな車の隣は「一番危険な場所」だと認識し、車間距離を十分にとるか、先に行かせてしまう。その一瞬の判断が、あなたの命を救います。
5. おわりに
この、ほんの少しの「だろう運転」と「だろう運転」が交差した時、取り返しのつかない悲劇は起きてしまいます。
私たち一人ひとりが、日々の運転の中で、この「だろう」という油断を捨て、ほんの少し危機意識を高めること。「かもしれない」という想像力を持つことが、あなたと、そして、あなたの周りの誰かの命を守る、唯一の方法なのかもしれません。
亡くなられた女性のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。