【2025年8月22日東京日本橋・死亡ひき逃げ】「相手の自爆だ」は通用するのか?『非接触事故』の厳しい現実

1. ぶつかっていなくても「ひき逃げ」になる
またしても、あまりにも身勝手な運転によって、尊い命が失われました。東京・日本橋の真ん中で、車線変更をした車がバイクを転倒させ、運転していた69歳の男性が死亡。車は、そのまま走り去ったといいます。
「私の運転に悪いところはない。相手の自爆だと思う」
逮捕された43歳の男は、こう供述していると報じられています。この言葉を聞いて、あなたは何を感じましたか?「ふざけるな」という怒りでしょうか。それとも、「ぶつかっていないなら、本当に車のせいじゃないのか?」という、素朴な疑問でしょうか。
今回はこの事件を題材に、たとえ車とバイクが直接ぶつかっていなくても、運転者に重い責任が問われる「非接触事故」(誘因事故ともいいます)という、非常に重要なテーマについて、その厳しい現実を解説していきます。
2. 事故の基本情報(報道に基づく現時点の事実)
東京・日本橋でバイクが転倒し運転手の男性(69)死亡 ひき逃げなどの疑いで会社員(43)を逮捕 警視庁|TBS NEWS DIG 2025年8月23日は配信 TBS NEWS DIG Powered by JNN
- 発生日時: 2025年8月22日 午後5時半すぎ
- 発生場所: 東京都中央区日本橋(昭和通り)
- 関係者:
- ワンボックスカー(加害者側): 43歳男性
- バイク(被害者側): 69歳男性(死亡)
- 現場状況: 43歳男性が右側に車線変更した際、後方を走行していたバイクが転倒し、ガードレールに衝突。男性はそのまま走り去った疑い。
3. このニュースの本当の論点:「非接触事故」と「因果関係」
今回の事件で、加害者の男性が「自爆だ」と主張している以上、最大の争点は「事故の原因が、車の運転にあったかどうか」、つまり「因果関係」が認められるかどうかです。
私が警察や保険会社にいた頃、こうした「非接触事故」の調査で最も重視していたのは、まさにこの点でした。
ここで重要なのは、必ずしも乱暴な暴走行為だけが原因になるわけではない、ということです。
たとえ運転している本人にとっては普通の車線変更のつもりでも、その行為がバイクを驚かせ、転倒させてしまったのであれば、事故の原因を作ったと判断されます。
では、どうやって証明するのか。我々プロは、以下の客観的な証拠を徹底的に集めます。
- ドライブレコーダーの映像: 今や最も強力な証拠です。加害車両、被害車両はもちろん、後続車や対向車など、第三者の映像が決定打になることも少なくありません。
- 周辺の防犯カメラ映像: 日本橋のような都心であれば、あらゆる場所にカメラがあります。それらを繋ぎ合わせ、車線変更の角度や速度を解析します。
- 目撃者の証言: 「車が急に割り込んできた」「バイクが避けるスペースはなかった」といった、第三者の客観的な証言は、非常に重要な意味を持ちます。
これらの証拠から、車の運転行為と、バイクの転倒との間に「因果関係」が認められれば、加害者の「自爆だ」という主張は完全に崩れ去るのです。
4. 「ひき逃げ」という、もう一つの重い罪
「転倒するのは見えた」と供述している以上、この男性には、バイクの運転手を救護する義務がありました。それを怠って逃走した行為は、それ自体が非常に悪質であり、厳しい罰則の対象となります。「ぶつかっていないから関係ない」という理屈は、法律の世界では一切通用しないのです。
5. あなたの身を守るための「鉄則」
このような理不尽な事故から身を守るために、全てのドライバー、ライダーに心に刻んでほしいことがあります。
- 【四輪ドライバーの方へ】バイクは、あなたの「死角」にいる
- 車線変更をする際は、ミラーで確認するだけでは不十分です。必ず、あなた自身の目で、バイクが死角にいないかを目視で確認する癖をつけてください。「いるだろう」ではなく、「絶対にいるかもしれない」という意識が、悲劇を防ぎます。
- 【バイクのライダーの方へ】あなたは、相手から「見えていない」
- 車の横を走る際は、常に「あの車は、次の瞬間、ウインカーも出さずに車線変更してくるかもしれない」と、危険を予測して運転することが重要です。相手の理不尽な運転から自分の命を守る、究極の自衛策です。
6. おわりに
車は、たとえ相手に触れなくても、その動き一つで、人の命を奪うことができる「凶器」になり得ます。そして、「自分は悪くない」という身勝手な思い込みが、被害者の救護という、人として最低限の義務さえも忘れさせてしまう。
今回の事件は、運転という行為に伴う、その重い責任を、改めて私たちに突きつけています。
亡くなられた男性のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。