【100%悪くない】を証明できるか?事故の加害者が責任を免れるための「3つの高い壁」

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💡 この記事を読めば分かること

  • 人身事故の加害者が、賠償責任を免れるための厳しい条件とは何か
  • 「相手が信号無視したから」という主張が、なぜ認められたり、認められなかったりするのか
  • 自分の無過失を証明するために、何が重要になるのか

1. 「相手が飛び出してきたんだ!俺は悪くない!」その主張、本当に通りますか?

交通事故の当事者になってしまった時、誰もが「自分は悪くなかった」と思いたいものです。
特に、「相手がセンターラインを越えてきた」「相手が赤信号を無視した」といった、相手の一方的なルール違反による事故の場合、そう思うのは当然でしょう。

しかし、前回の記事で解説した「運行供用者責任」は、加害者側に非常に重くのしかかります。
「相手が悪かったから」という主張だけでは、人身事故に対する賠償責任から逃れることはできません。

法律(自賠法3条)は、加害者(運行供用者)が人身事故に対する責任を免れるために、「3つの高い壁」をすべて乗り越えること、つまり、3つの条件すべてを、加害者自身が証明することを要求しているのです。

今回は、その「3つの高い壁」とは一体何なのかを、具体的に解説していきます。

2. 第1の壁:「自分たちには、一切の注意不足がなかった」と証明せよ

これが、3つの壁の中で最も高く、最も重要な壁です。
法律の言葉で言うと「自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと」の証明。平たく言えば、「自分と運転手には、1%の過失もなかった(=無過失だった)」と、客観的な証拠で証明しなさい、ということです。

では、どんな場合なら「無過失」が認められるのでしょうか?
ここで重要になるのが「信頼の原則」という考え方です。

これは、「交通ルールを守って運転している人は、他の人もルールを守るだろうと信頼して運転してよい。ルールを無視して突っ込んでくる車のことまで予測して、事故を避ける義務はない」という考え方です。

【「無過失」が認められたケース(センターラインオーバー事故)】

山間部のカーブした一本道。きちんと自分の車線を走っていたA車の前に、対向車B車がセンターラインを大きくはみ出して突っ込んできて、正面衝突してしまいました。

この場合、裁判所は「きちんと車線を守っていたA車に、対向車がはみ出してくることまで予測して避けろというのは酷だ」と判断し、A車の無過失を認め、責任を免除する可能性が高いです。(さいたま地判H23.3.18など)

しかし、これは絶対ではありません。

【「無過失」が認められなかったケース(センターラインオーバー事故)】

センターラインのない、見通しの悪い山道のS字カーブ。対向車A車が少し中央寄りにはみ出してきて、B車と衝突しました。

この場合、裁判所は「センターラインがない見通しの悪いカーブなのだから、対向車がはみ出してくるかもしれないと予測し、もっと左に寄ったり、クラクションを鳴らしたりして、事故を避ける努力をすべきだった」として、衝突されたB車にも過失があったと判断しました。(大阪地判H10.7.28)

つまり、「自分はルールを守っていた」という事実だけでは不十分で、「その状況で、事故を避けるための最大限の努力を本当にしたのか?」まで厳しく問われるのです。

3. 第2の壁:「悪いのは100%、被害者か第三者だ」と証明せよ

第1の壁と密接に関係しますが、これも重要な条件です。
法律の言葉で言うと「被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと」の証明。
つまり、「事故の原因は、完全に被害者側の不注意(例えば、赤信号無視や飛び出し)や、全く別の車のせいだ」と証明しなさい、ということです。

第1の壁の例で言えば、「相手が100%悪いセンターラインオーバーだった」と証明できれば、この第2の壁も同時にクリアできることになります。

4. 第3の壁:「車に、一切の欠陥や故障がなかった」と証明せよ

最後の壁は、「自動車に構造上の欠陥又は機能の障害のなかったこと」の証明です。
「事故の原因は、ブレーキの故障やタイヤの欠陥など、車のトラブルによるものでは断じてない」と証明する必要があります。

例えば、相手がセンターラインオーバーしてきた事故では、被害者側が「あなたの車のブレーキが壊れていたんじゃないですか?」などと争ってくることは稀です。そのため、通常はこの壁が大きな争点になることは少ないでしょう。
しかし、法律上は、この点についても加害者側が「問題なかった」と証明する責任を負っているのです。

5. まとめ:自分の「潔白」を証明するための、たった一つの武器

💡 今日のポイント

  • 人身事故の加害者が責任を免れるには、「①自分は無過失」「②相手が100%悪い」「③車も完璧」という3つの壁をすべて自力で証明する必要がある。
  • 「自分はルールを守っていた」だけでは不十分で、「事故を避ける最大限の努力をしたか」まで問われる。
  • これらの証明は非常に困難で、加害者の責任が免除されるケースは極めて例外的である。

「自分は悪くない!」といくら口で叫んでも、それを客観的に証明できなければ、法律はあなたを守ってくれません。
センターラインオーバー、信号無視、相手の急な飛び出し…。そうした理不-尽な事故から自分の潔白を守るための、現代における最強にして唯一の武器。

それが、ドライブレコーダーです。
あなたの「最大限の努力」を記録してくれるこの小さな機械が、この3つの高い壁を乗り越えるための、何よりの証人になるのです。


⚠️ この記事で解説する「運転していない車の所有者」が負う可能性のある「運行供用者責任」は、あくまで『人身事故(他人を死傷させた場合)』に適用される、法律上の特別なルールです。

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はちわれサクラ
はちわれサクラ
万年巡査長
元・警察官 × 損害保険会社の事故調査員。 ひき逃げ、死亡事故から保険金の不正請求まで、様々な交通事故の調査を経験。 法律の条文ではなく、事故の「現場」を語ります。「元・中の人」の実務目線で、リアルな情報だけを解説。 (現在はセミFIRE中)
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