【駐車してただけなのに…】停車中の車も事故の加害者になる!?知っておくべき責任の境界線

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💡 この記事を読めば分かること

  • なぜ、停まっていただけの車にも事故の責任が問われるのか
  • 駐車車両の責任が「ある」と「ない」を分ける、具体的な状況の違い
  • 自分の身を守るための、正しい駐車のルール

1. 「そこに停まっていた、お前が悪い」…そんな理不尽、本当にあるの?

薄暗い夜道、あなたが車を運転しているとします。
カーブを曲がった先に、一台のトラックがハザードもつけずに真っ暗な状態で停まっていたら…?

「危ない!」
急ブレーキも間に間に合わず、追突してしまった。

普通に考えれば、「前をよく見ていなかった自分が100%悪い…」と思いますよね。
しかし、法律の世界は少し違います。その「停まっていたトラック」にも、事故の責任が問われる可能性が十分にあるのです。

今回は、この一般の方の常識とは少し違う、「駐車車両」が絡む事故の責任について、実際の裁判例も交えながら深掘りしていきます。

2. なぜ「止まっているだけ」で責任が問われるのか?

そもそも、なぜ動いていない車にまで責任が及ぶのでしょうか?
それは、「その駐車の仕方が、他のドライバーにとって危険だったかどうか」、つまり法律で言うところの「過失」が問われるからです。

道路に車を停めること自体が、即「過失アリ」となるわけではありません。
裁判所や保険会社は、

  • そこは駐車禁止場所だったか?(法律違反の有無)
  • 道路は広かったか、狭かったか?
  • 夜間だったか、昼間だったか?
  • ハザードランプはつけていたか?
  • 交通量は多かったか?見通しは良かったか?

といった、あらゆる具体的な状況を総合的に考慮して、「あなたのその駐車は、他の車にとって予測しづらい、あまりにも危険な状況を作り出していませんでしたか?」という観点で、過失の有無や大きさを判断するのです。

3. ケース①:「駐車車両への追突事故」― 過失アリとナシの境界線はどこか?

これが最も多いパターンです。
大原則として、前方をよく見ていなかった追突車の過失が圧倒的に大きいことは間違いありません。
しかし、駐車車両側の過失が「ゼロ」になるか、それとも「数割」認められるかは、まさにケースバイケース。その分かれ目はどこにあるのでしょうか?実際の裁判例を比較してみましょう。

【駐車側に『過失アリ(3割)』とされたケース】

夜間、街灯で比較的明るい、片側5車線もある広い道路。その中央寄りの走行車線に、一台の大型トレーラーがライトもハザードもつけずに(無灯火で)停まっていました。そこに、制限速度を少しオーバーした車が、ブレーキをかけることなく追突してしまいました。

裁判所は、この駐車の仕方はあまりに危険だとして、トレーラー側にも「3割の過失がある」と認定しました。(東京地判H8.9.19)

このケースで重要なのは、「予測しづらい危険」です。
追突した側からすれば、まさか走行車線上に、巨大なトレーラーが無灯火で潜んでいるとは予測しづらいですよね。たとえ見通しが良くても、暗闇に溶け込んだ巨大な障害物は、発見が遅れがちです。
このように、「相手にとって、発見や回避が困難な危険な状況」を自ら作り出したことが、3割という重い過失につながったのです。

【駐車側に『過失ナシ(0割)』とされたケース】

夜間、見通しの良い片側1車線の道路。その左端に沿って、一台の車両運搬車がハザードランプ、尾灯、側灯のすべてを点灯させて駐車していました。そこに、普通貨物車が追突しました。

裁判所は、「ハザード等もつけていた駐車車両を後方から認識することは困難とは認められない」として、駐車車両側の過失を「0」と判断しました。(東京地判H22.4.13)

こちらはなぜ過失ゼロだったのでしょうか?理由は単純明快で、「駐車する側として、やるべきことをやっていたから」です。
道路の左端に寄せ、ライト類もすべてつけている。これは、後続車に対して「ここに車が停まっていますよ!」と最大限のアピールをしている状態です。
「これだけ発見しやすい状況だったのに、気づかずに追突した側の前方不注意が100%の原因だ」と判断されたわけです。

この2つの例からも分かるように、駐車車両に過失があるかどうかは、画一的なルールで決まるのではなく、あくまで個々の事故の状況に応じて、個別に判断されるのです。

4. ケース②:「駐車車両が原因となる、その他の事故」

追突以外にも、駐車車両が原因となる事故はたくさんあります。

【ドア開け事故】
後方を確認せずにドアをいきなり開けて、後ろから来たバイクや自転車が衝突する。これは、原則として「ドアを開けた側の過失が圧倒的に大きい」と判断されます。

【駐車車両を避けたことによる事故】
「邪魔な駐車車両を避けようと、反対車線にはみ出したら、対向車と正面衝突してしまった」
この場合、直接ぶつかっていない駐車車両も事故の「原因」を作ったと見なされ、責任を問われることがあります。
過去の裁判例では、無灯火で駐車していた車、対向車、そしてそれを避けた車の3者に、「駐車車両:約17%、対向車:約17%、避けた車:約67%」といったように、責任を分散させたケースもあります。

【駐車車両による死角からの事故】
「駐車していた大型トラックの陰から、歩行者やフォークリフトが飛び出してきて、避けきれずに衝突してしまった」
この場合も、危険な死角を作り出したとして、駐車車両の責任が問われる可能性があります。


💡 今日のポイント

  • 駐車車両の責任は、「その駐車が、他の交通にとってどれだけ危険だったか」で判断される。
  • 夜間の駐車は、必ずハザードランプや尾灯をつけることが、自分を守る最大の防御になる。
  • たとえぶつかっていなくても、自分の駐車が事故の「原因」になれば、責任を問われる。
  • 事故の状況を客観的に証明するため、ドライブレコーダーは必須の装備である。

ABOUT ME
はちわれサクラ
はちわれサクラ
万年巡査長
元・警察官 × 損害保険会社の事故調査員。 ひき逃げ、死亡事故から保険金の不正請求まで、様々な交通事故の調査を経験。 法律の条文ではなく、事故の「現場」を語ります。「元・中の人」の実務目線で、リアルな情報だけを解説。 (現在はセミFIRE中)
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