【車の名義変更】サボると危険!売ったはずの車の事故で、なぜあなたが責任を負うのか?

1. 「もう俺の車じゃないのに…」元・所有者を襲う、悪夢の通知
あなたは、もう乗らなくなった自分の車を、友人や後輩に売ったり、譲ったりしたとします。
車もキーも完全に相手に引き渡し、「あとはよろしく!」と一安心。
しかし数ヶ月後、あなたの元に警察から連絡が。
「あなたの名義の車が、人身事故を起こしまして…」
あなたは思います。「いやいや、あの車はもう売った(譲った)後だ。名義変更がまだだっただけ。俺には関係ないはずだ…」
その考えは、残念ながら通用しない可能性があります。
たとえあなたの手元から車が離れていても、車検証上の「所有者」として名前が残っている(名義残り)限り、あなたは事故の賠償責任(運行供用者責任)を負う危険に晒され続けるのです。
今回は、この「名義残り」や、安易な「名義貸し」に潜む、恐ろしいリスクについて解説していきます。
2. なぜ「名前が残っているだけ」で責任が問われるのか?
なぜ、単なる名義人に過ぎないのに、これほど重い責任が問われるのでしょうか?
それは、法律が「車検証に所有者として登録されている者は、その車の運行を管理・監督すべき立場にある、と『事実上、推定』する」からです。
もちろん、あなたが「いや、私はもう実質的な所有者ではない!」と証明できれば、責任を免れることは可能です。
しかし、その証明の責任は、あなた自身にあります。
裁判所は、単に「売った」「貸した」という事実だけでなく、
- 名義人と、実際に車を使っている人の関係性(親子、友人など)
- なぜ、名義人と使用者が違うのか、その経緯
- 車の保管場所や、維持費(税金、車検代など)を誰が負担していたか
といった、あらゆる事情を総合的に考慮し、「あなたは、その車の運行に、実質的に関与できる立場にありませんでしたか?」という点を、厳しく判断するのです。
3. 責任アリとナシの境界線はどこ?実際の裁判例
では、具体的にどんな場合に責任が問われ、どんな場合に免れることができるのでしょうか?
【元・所有者の責任が『認められた』ケース(名義残り)】
姉が、結婚して使わなくなった車を実家に置いたままにしていました。名義は姉のままです。その車を、実家の弟が勝手に乗り回して人身事故を起こしました。税金や車検代は、父親や弟が払っていました。
裁判所は、「姉は、弟が車を使っていることを黙認しており、名義人として車の運行を管理・監督すべき立場にあった」として、姉の責任を認めました。(東京地判H11.12.27)
たとえ自分が使っていなくても、家族が使うのを黙認しているような状況では、「名義人としての監督責任」から逃れることは難しいのです。
【元・所有者の責任が『否定された』ケース(名義貸し)】
ローンが組めない同棲相手のために、Aさんは自分の名義で車を購入しました(名義貸し)。しかし、車の代金は実質的に相手が支払い、車も相手が管理し、Aさん自身は一度も運転したことがありませんでした。その後、同棲を解消し、相手がその車で事故を起こしました。
裁判所は、「Aさんは単に名義を貸しただけで、車の運行を支配したり、利益を得たりする立場にはなかった」として、Aさんの責任を否定しました。(名古屋地判H17.12.21)
この2つの例の分かれ目は、「名義人であるあなたが、その車の運行に、どれだけ実質的に関与し、コントロールできる立場にあったか」という点です。
4. 自分の身を守るために、絶対にやるべきこと
ここまで読んでいただければ、「名義」というものが、いかに重い責任を伴うか、お分かりいただけたかと思います。
安易な「名義貸し」は、絶対にやめましょう。友人のため、恋人のためと思ったその親切が、数千万円の借金となってあなたに返ってくる可能性があります。
そして、車を売ったり、譲ったりした場合は、とにかく一日でも早く、確実に名義変更手続きを行うこと。相手任せにせず、自分自身で最後まで責任を持って確認する。
それが、未来のあなたを、予期せぬ巨大なトラブルから守るための、唯一にして絶対の方法なのです。