【自分の車で事故】保険金が出る人、出ない人『共同運行供用者』の他人性という難問を解説

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💡 この記事を読ばば分かること

  • なぜ、車の所有者が自分の車で事故にあっても、自賠責保険が使えないのが原則なのか
  • 例外的に、所有者でも「他人」として扱われ、保険が使えるケースとは何か
  • その運命を分ける「運行支配」という考え方

1. 「俺の車なのに、俺には保険が出ない…?」所有者を襲う、理不尽な現実

あなたは、友人A君に「運転よろしく!」と頼み、自分は助手席に乗ってドライブを楽しんでいます。
その時、A君の運転ミスで自損事故。あなたは怪我をしてしまいました。

「自分の車なんだから、当然、自分の自賠責保険が使えるだろう」
そう思いますよね。

しかし、原則として答えは「NO」です。
あなたは、自賠責保険の救済対象である「他人」にはなれないのです。

なぜなら、前回の記事で解説した通り、あなたは車の所有者として「運行供用者」にあたり、「他人」の定義から外れるからです。

しかし、話はここで終わりません。
ある「特別な状況」下では、車の所有者であるあなたも、例外的に「他人」として扱われ、保険金を受け取れるケースがあるのです。

今回は、この非常に複雑な「共同運行供-用者(きょうどううんこうきょうようしゃ)の他人性」という法律の難問を、3つの裁判例を元に、できる限り分かりやすく解説していきます。

2. 大原則:「車を支配している者」は「他人」ではない

まず、大原則を頭に入れてください。
それは、「事故が起きた、まさにその瞬間の運転(運行)を、より強く支配・コントロールできる立場にあった者は、『他人』として保護されない」という考え方です。

裁判所は、同じ車に乗っている複数の責任者(共同運行供用者)がいる場合、「どっちがより強く、その運行を支配していたか?」を天秤にかけ、より支配力が弱い方を「他人」として救済しようとします。

この「運行支配」というキーワードが、あなたの運命を分けるのです。

3. あなたは「他人」になれるか?運命を分けた3つの裁判例

では、具体的にどんな場合に「他人」になれたり、なれなかったりするのでしょうか?

【ケース①:友人・知人に運転を任せた場合 → 他人になれない!】

車の所有者Xさんが、友人Yさんに運転を任せ、自分は助手席に同乗中に事故が発生。Xさんが亡くなってしまいました。

裁判所は、Xさんの「他人性」を否定しました。なぜなら、たとえ友人がハンドルを握っていても、所有者であるXさんは「いつでも運転を交代させたり、具体的な指示を出したりできる、中心的な責任者」だったからです。運転を任せた友人と比べ、所有者であるXさんの「運行支配」は、勝るとも劣らなかった、と判断されたのです。(青砥事件)

このように、単に友人や知人に運転を任せているだけでは、所有者であるあなたの「運行支配」は失われず、「他人」として保護されることは極めて困難です。

【ケース②:レンタカーを借りて、友人に運転させた場合 → 他人になれない!】

車の所有者Yさんから、Xさんが車を借りました(レンタカーのようなイメージです)。その後、Xさんは後部座席に乗り、別の友人に運転させている最中に事故が発生し、怪我をしました。

この場合も、Xさんの「他人性」は否定されました。なぜなら、車の所有者Yさんの運行支配は、車外にいるため「間接的・抽象的」なのに対し、実際に車を借りて車内にいるXさんの運行支配は「直接的・具体的」だからです。車外にいる所有者よりも、車内にいる借主の方が、より運行を強く支配している、と見なされたのです。

【ケース③:運転代行を頼んだ場合 → 他人になれる!】

車の所有者Xさんが、お酒を飲んだため運転代行業者Y社に運転代行を依頼。Y社から派遣されたドライバーZさんが運転する自分の車に、Xさんが同乗中、事故が発生し怪我をしました。

このケースでは、ついにXさんの「他人性」が認められました!なぜなら、Xさんは飲酒しており、「安全に運転してもらう」ことを目的として、お金を払ってプロである代行業者に運行の主導権を完全に委ねていたからです。この場合、Xさんの運行支配は「間接的・補助的」なものに過ぎず、代行業者の方が圧倒的に運行を強く支配している、と判断されたのです。

(黄色マーカー)この3つの例から分かるのは、「誰がハンドルを握っていたか」という物理的な支配だけでなく、「誰がその運転に対して、最終的な責任と主導権を持っていたか」という、目に見えない力関係が問われるということです。

💡 今日のポイント

  • 車の所有者は、原則として自分の車の事故で「他人」にはなれず、自賠責保険は使えない。
  • 例外的に「他人」と認められるかは、「運行支配」を誰がより強く持っていたかで決まる。
  • 友人への運転依頼では「他人」になるのは難しいが、運転代行のように、お金を払ってプロに運行の主導権を完全に委ねた場合は、「他人」として保護される可能性がある。
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はちわれサクラ
はちわれサクラ
万年巡査長
元・警察官 × 損害保険会社の事故調査員。 ひき逃げ、死亡事故から保険金の不正請求まで、様々な交通事故の調査を経験。 法律の条文ではなく、事故の「現場」を語ります。「元・中の人」の実務目線で、リアルな情報だけを解説。 (現在はセミFIRE中)
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