【2025年8月15日四日市・死亡ひき逃げ】「記憶がない」は通用するのか?

1. これは「事故」ではない、身勝手な「事件」だ
またしても、絶対にあってはならない悲劇が起きてしまいました。三重県四日市市で、酒を飲んで車を運転し、あろうことか道路を逆走。そして、なんの罪もない方の命を奪い、その場から逃げ去るという、あまりにも身勝手な事件です。
「記憶はないが、状況を考えると自分だと思う」
逮捕された41歳の男は、こう供述しているといいます。この言葉を聞いて、あなたは何を感じましたか?「ふざけるな」という怒りでしょうか。それとも、「そんな言い訳が通用するのか?」という疑問でしょうか。
今回はこの事件を題材に、悪質なドライバーが使う「記憶がない」という言葉の裏側、そして、彼らを待つ厳しい現実について、元・中の人としての視点から、少し踏み込んでお話ししたいと思います。
2. 事故の基本情報(報道に基づく現時点の事実)
- 発生日時: 2025年8月15日 午前3時10分ごろ
- 発生場所: 三重県四日市市十七軒町(市道の交差点)
- 関係者:
- 乗用車(加害者側): 41歳男性(自動車整備業)。酒気帯び、逆走、ひき逃げの疑い。
- 軽貨物車(被害者側): 58歳男性(会社員)。死亡。
- 現場状況: 片側2車線の道路。Uターンしようとしていた軽貨物車に、逆走してきた乗用車が正面衝突。容疑者は車を乗り捨てて逃走。
3. 「記憶がない」という“常套句”の狙い
私が現役だった頃も、飲主運転の加害者が「酔っていて覚えていない」と主張するケースは、残念ながら数多く見てきました。これは、彼らが使う“常套句”の一つなのです。
では、なぜ彼らはそう主張するのでしょうか。
そこには、少しでも自分の罪を軽くしたい、という浅はかな狙いが隠れている可能性があります。
今回の容疑者には「危険運転致死」の疑いがかけられています。これは、例えば「正常な運転が困難な状態(泥酔など)で車を走行させた」場合に適用される、非常に重い罪です。
もしかすると容疑者は、「記憶がないほど酔っていたのだから、正常な運転が困難な状態だったことは認めるが、故意に危険な運転をしたわけではない」とでも言いたいのかもしれません。
しかし、そんな言い分が通用するほど、捜査の現場は甘くありません。たとえ本人が「記憶がない」と主張しても、
- 事故直前の防犯カメラ映像に映る、運転手の状況
- 事故を起こすまでに立ち寄った飲食店の、店員やお客さんの証言
- 客観的な車の動き(まっすぐ走れず、蛇行しているなど)
といった客観的な証拠を積み重ね、「あなたが正常な判断ができない状態で運転していたことは明らかです」と、その主張を崩していきます。記憶があるかないかは、罪の成立には関係ないのです。
4. ひき逃げ犯を待つ「保険」という厳しい現実
もう一つ、非常に重要な点があります。それは、自動車保険の話です。
酒気帯び運転は、保険の世界では最も重いペナルティが課せられる行為の一つです。
- もし、加害者が保険に入っていたら?
- 加害者自身のケガや車の修理代はもちろん一円も支払われません。自業自得です。
- 亡くなられた被害者への賠償については、被害者救済の観点から、対人賠償保険などから支払われます。
- しかし、自分の車も体も保険で治せず、これから先には重い刑事罰と、一生をかけて償うべき民事上の責任が待っています。
- 最悪のケース…もし、加害者が「無保険」だったら?
- さらに、こうした悪質な加害者の場合、そもそも任意保険に加入していない「無保険」である可能性も、残念ながら考えなければなりません。
- では、その最悪のケースではどうなるのか。この場合、被害者はまず、ご自身が加入している保険(人身傷害保険など)を使って、治療費や逸失利益などを受け取ることになります。
- もちろん、金銭的には補償されますが、なんの落ち度もないのに自分の保険を使わざるを得ないというのは、精神的に大きな負担ですよね。その後、あなたの保険会社が、支払った保険金を加害者本人に請求(求償)していくことになりますが、それもまた、簡単な道のりではありません。これもまた、悪質な事故に巻き込まれた際の、もう一つの厳しい現実なのです。
5. あなたの身を守るための「鉄則」
このような理不尽な事件から、どうすれば自分の身を守れるのでしょうか。
- 【鉄則①】飲酒運転は、しない、させない、許さない
- これは、あなた自身と、あなたの大切な人のための鉄則です。もし、あなたの友人や同僚が、飲酒後にハンドルを握ろうとしていたら、命がけで止めてください。それが、本当の友情です。
- 【鉄則②】深夜の運転は「魔物」がいると心得る
- 残念ながら、深夜から未明にかけての時間帯は、飲酒運転や無謀な運転をする車に遭遇する確率が、昼間よりも高くなるのが現実です。もし深夜に運転する際は、「もしかしたら、とんでもない車がいるかもしれない」と、普段以上に警戒レベルを上げてください。これは、ただ事故を避けるためだけではありません。万が一、会話が成り立たないような相手とのトラブルに巻き込まれてしまうと、たとえあなたが正しくても、時間と心をすり減らすだけの不毛な結果になりがちなのです。そうした理不尽から自分の身を守るためにも、「怪しい車には、近づかない」。これも立派な自衛だと、私は思います。
6. おわりに
酒を飲んでハンドルを握る。その一つの身勝手な選択が、なんの罪もない人の未来を、家族の幸せを、そして自分自身の人生をも、一瞬で破壊し尽くす。これほど愚かで、悲しいことはありません。
「記憶がない」のではなく、「未来がなくなる」のです。
この記事を読んでくださったあなたが、そしてあなたの周りの大切な人が、絶対にこのような事件の加害者にも被害者にもならないことを、心から願ってやみません。
亡くなられた方のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。