【下請けの事故】「ウチは関係ない」では済まない!元請会社が責任を負う、危険な境界線

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💡 この記事を読めば分かること

  • なぜ、契約上は「他人」であるはずの下請けの事故で、元請会社が責任を負うのか
  • 元請会社の責任の有無を分ける「指揮・監督関係」とは何か
  • 自社のリスクを管理するために、元請会社が注意すべきこと

1. 「下請けさんの事故?ウチとは契約関係が違うから…」その認識、本当に正しいですか?

あなたの会社が、ある大きなプロジェクトを請け負ったとします。
人手が足りないため、仕事の一部を、いつも付き合いのある下請け業者A社にお願いしました。

その後、A社の従業員が、現場に向かう途中で人身事故を起こしてしまいました…。

あなたは思います。「A社とは、あくまで『請負契約』だ。雇用関係にあるわけではない。事故の責任は、すべてA社が負うべきで、元請であるウチには関係ないはずだ…」

その考えは、非常に危険です。
たとえ直接の雇用関係になくても、元請会社と下請け業者の「実態」によっては、元請会社も「使用者」や「運行供用者」と見なされ、下請け業者が起こした事故の損害賠償責任を、連帯して負う可能性があるのです。

2. なぜ「元請」も責任を負うのか?法律が見ているのは「実態」

本来、請負契約では、仕事の完成までのプロセスは請負人(下請け)の責任であり、注文主(元請)は、その過程で起きた事故の責任を負わないのが原則です(民法716条)。

しかし、裁判所は契約書の形式だけでなく、「元請会社と下請け業者の、実質的な力関係」を厳しく見ています。

多くの場合、下請け業者は元請会社より規模が小さく、経済的にも、事実上も、元請会社の強い影響下にあります。
もし、元請会社が下請け業者を、あたかも自社の従業員のように指揮・監督していると見なされれば、もはや「他人事」では済まされません。

元請会社は、下請け業者を使うことで事業を拡大し、利益を得ている。ならば、その過程で生じたリスク(事故)に対しても、相応の責任を負うべきだ。これが、法律の基本的な考え方なのです。

3. 責任の分かれ目となる「指揮・監督関係」とは?

では、どんな場合に「元請が下請けを指揮・監督している」と見なされるのでしょうか?
裁判所は、以下のような様々な事情を総合的に考慮して判断します。

  • その下請け業者は、あなたの会社の仕事を専門的に(専属的に)請け負っていたか?
  • 現場で、あなたの会社の社員が、下請けの従業員に直接、作業の指示を出していなかったか?
  • あなたの会社が、下請けの車の燃料費や駐車場代などを提供していなかったか?
  • 下請けの車に、あなたの会社の名前やロゴが入っていなかったか?

これらの項目に当てはまるものが多ければ多いほど、両者は単なる請負関係ではなく、「実質的な使用関係(雇用関係に近い関係)」にあると判断され、元請会社の責任が認められやすくなります。

【元請会社の責任が『認められた』ケース】

下請運送会社A社は、元請運送会社Y社の指示するコースとスケジュールに従って、運送業務を行っていました。荷物の積み下ろしも、Y社の係員の立ち会いの下で行われていました。

裁判所は、「A社の運行は、Y社の支配の下に、Y社の利益のために行われていた」として、A社の従業員が起こした事故について、元請であるY社の責任を認めました。(最判S39.9.11)

このように、仕事の進め方について、元請会社が細かく管理・指示している実態があれば、たとえ下請けの車であっても、その運行の責任は元請会社にも及ぶのです。


4. 元請会社の責任が「否定された」ケース

もちろん、すべてのケースで元請会社の責任が認められるわけではありません。

【元請会社の責任が『否定された』ケース】

元請会社Y社は、下請け業者A社の作業員に対し、作業現場での作業内容については指示をしていました。しかし、A社の従業員が、A社の車で作業現場から帰宅する途中で事故を起こしました。

裁判所は、「Y社の指揮監督が及んでいたのは、あくまで現場での作業についてであり、作業終了後の帰宅行為にまで及んでいたとは言えない」として、元請であるY社の責任を否定しました。(名古屋高判H24.3.29)

この例からも分かるように、「事故が起きた、まさにその瞬間、元請会社の支配が及んでいたと言えるか?」が、非常に重要な判断基準となります。

💡 今日のポイント

  • たとえ請負契約でも、下請け業者を実質的に「指揮・監督」していると見なされれば、元請会社も事故の責任を負う。
  • 責任の有無は、専属関係の有無や、現場での具体的な指示費用の負担など、様々な事情から総合的に判断される。
  • 下請け業者に仕事を依頼する際は、単なる「発注先」なのか、それとも「自社の手足」として使うのか、その関係性を明確にしておくことが、リスク管理の第一歩となる。
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はちわれサクラ
はちわれサクラ
万年巡査長
元・警察官 × 損害保険会社の事故調査員。 ひき逃げ、死亡事故から保険金の不正請求まで、様々な交通事故の調査を経験。 法律の条文ではなく、事故の「現場」を語ります。「元・中の人」の実務目線で、リアルな情報だけを解説。 (現在はセミFIRE中)
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