【バック誘導中の事故】「オーライ!」助手席のあなたも加害者になる?運転助手の責任を解説

1. 「オーライ、オーライ…ドン!」この事故、責任は誰にある?
トラックが狭い路地でバックする時、助手席から人が降りてきて、後ろを見ながら「はい、バックオーライ、オーライ!…あ、ストーップ!!」と声をかける光景、よく見かけますよね。
では、想像してみてください。
運転助手が「まだ大丈夫です、オーライ!」と言った直後、ドン!と鈍い音。後ろにあった壁にトラックがぶつかってしまいました。
この場合、責任は100%、ハンドルを握っていた運転手にあるのでしょうか?
それとも、誘導していた運転助手にも、責任の一端があるのでしょうか?
答えは、「運転助手も、損害賠償責任を負う可能性がある」です。
「え、運転してないのに?」「親切で手伝ってただけなのに?」
そう思いますよね。
今回は、このあまり知られていない「運転助手の責任」について、分かりやすく解説していきます。
2. 運転助手は「他人」ではない?法律上の、ちょっと特殊な立場
まず、前回の記事のおさらいです。
自動車事故の法律(自賠法)では、自賠責保険で救済される人を「他人」と呼び、「運行供用者(車の持ち主など)」と「運転者」は「他人」ではない、と説明しました。
では、「運転助手」はどこに分類されるのでしょうか?
法律上、運転助手は「運転補助者」、つまり「運転者」の仲間として扱われます。
そのため、運転助手には2つの大きな特徴があります。
- 運行供用者責任は負わない
→ あくまで補助役なので、車の持ち主(運行供用者)のような、無過失に近い重い責任を負うことはありません。 - 「他人」ではないため、自賠責保険では保護されない
→ 運転業務に関わる当事者と見なされるため、万が一その車が事故を起こして自分が怪我をしても、「他人」ではないので、その車の自賠責保険を使うことはできません。
つまり運転助手は、「重い責任は負わない代わりに、手厚い保護も受けられない」という、少し特殊な立場にいるのです。
3. では、どんな時に「運転助手」も責任を負うのか?
運転助手は、運行供用者責任のような重い責任は負いません。
しかし、だからといって、常に無罪放免というわけではないのです。
運転助手の「補助行為そのもの」に、明らかな不注意(過失)があり、それが事故の原因になった場合は、普通の不法行為(民法709条)として、運転手と連帯して損害賠償責任を負うことになります。
【運転助手に責任が認められる、具体的なケース】
- バック誘導のミス
→ 後ろに歩行者がいるのに気づかず、「オーライ!」と声をかけ、人身事故を発生させてしまった。 - クレーン作業での誘導ミス
→ クレーンで吊り上げた荷物の下に人がいるのに、「下ろしてOK!」と合図を出し、荷物の落下事故を引き起こしてしまった。 - 道案内のミス
→ 「この道、トラック通れるから大丈夫!」と指示したが、実際は高さ制限があり、トラックが橋に衝突してしまった。
ポイントは、「運転手の目となり、耳となる」べき運転助手が、その役割を怠ったかどうか、です。あなたの「大丈夫」の一言が、事故の引き金になったと判断されれば、責任は免れられないのです。
4. 運転手と運転助手の「共同責任」
もし、運転助手の責任が認められた場合、被害者から見れば、運転手も運転助手も「一つのチーム」として見なされます。
これを共同不法行為といい、被害者は、損害額の全額を、運転手か運転助手のどちらか一方に(もちろん両方に按分してもOK)請求することができます。
例えば、1000万円の損害が発生した場合、被害者は運転助手に「1000万円払ってください」と請求できるのです。(その後、運転助手は運転手に対し、「責任の割合に応じて、あなたが払うべき分を私に返しなさい」と請求することになります)