【エンジン停止中でも責任が!?】駐車中のトラックからの荷下ろし事故も「自動車事故」になるって本当?

1. 想像してみてください。これは「自動車事故」でしょうか?
ある工事現場での出来事です。
クレーン車がアームを伸ばし、資材を吊り上げようと作業していました。車のエンジンは止まっています。
その時、操作を誤り、吊り上げた資材が落下。近くを通りかかった通行人が大怪我をしてしまいました…。
さて、これは単なる「作業中の事故」でしょうか?
それとも、「自動車事故」として、クレーン車の持ち主が自賠責保険などを使って賠償責任を負うのでしょうか?
答えは、「自動車事故として扱われる可能性が非常に高い」です。
「え、エンジンもかかってないのに?」「走ってすらいないのに?」
そう思いますよね。
この疑問を解く鍵が、法律で定められた「運行によって」という、少し難しい言葉の解釈にあるのです。
2. 「運行」の範囲は、あなたが思うよりずっと広い!
自動車の人身事故の被害者を広く救済するため、法律(自賠法)でいう「運行」の範囲は、私たちが普段イメージする「運転」よりも、ずっと広く解釈されています。
裁判所は、「その自動車に固有の装置を使っている最中も『運行』にあたる」と考えています(これを固有装置説といいます)。
どういうことかと言うと…
- トラックの荷台で荷物の積み下ろしをしている
- クレーン車のアームを操作している
- ダンプカーの荷台を上げ下げしている
- 乗用車のドアを開け閉めしている
これらの行為はすべて、エンジンをかけて公道を走っているのと同じ「運行」の一部と見なされるのです。
なぜなら、これらの「固有の装置」が動くこと自体に、人を傷つける危険が潜んでいるからです。
冒頭のクレーン車の事故も、この考え方に基づき、「運行によって」起きた事故と判断されるのです。
3. 「ぶつかってない事故」も「運行によって」起きている
では、こちらのケースはどうでしょう。
あなたが車を運転中、前方を走っていた車が、ウインカーも出さずにいきなり左折。あなたは「危ない!」と急ブレーキを踏んだことで、後続のバイクが避けきれずにあなたに追突してしまいました。原因を作った左折車は、誰にもぶつからずに走り去ってしまいました…。
この場合、あなたはバイクの運転手に対して賠償責任を負うとともに、走り去った左折車に対しても「あなたの危険な運転が原因で事故が起きた!」と、損害賠償を請求できる可能性があります。
これが、「非接触事故(誘因事故)」です。
直接ぶつかっていなくても、相手の車の「運行」が原因で損害が発生したと証明できれば、それは「運行によって」起きた事故と認められるのです。
ただし、ここでの最大の壁は「証明」です。「相手の危険な運転」と「こちらの損害」の間に、明確な因果関係があることを、ドライブレコーダーなどの客観的な証拠で示す必要があります。
4. 高速道路で故障…車外に避難した後の事故も「運行」の続き?
最後に、少し痛ましいですが、非常に重要なケースをご紹介します。
高速道路で単独事故を起こしてしまったAさん。車は大破し、このまま車内にいると後続車に追突される危険がありました。Aさんは、危険を避けるために車外に出て、ガードレールの外側に避難しました。しかし、不幸にもそこに後続車が突っ込んできて、Aさんは亡くなってしまいました。
この場合、Aさんの遺族は、Aさん自身が加入していた任意保険(搭乗者傷害保険など)から、保険金を受け取れるのでしょうか?
保険の支払条件は「自動車の運行に起因する事故」です。Aさんはすでに「車外」にいましたが…。
裁判所は、「保険金は支払われるべきだ」と判断しました。
なぜなら、
「車外への避難は、最初の自損事故という『運行中の事故』から逃れるための、やむを得ない一連の行動である」
と認めたからです。つまり、車外に出た後の事故も、最初の「運行」と地続きの出来事だと判断したのです。
このように、「運行によって」という言葉は、被害者を広く救済するという目的のもと、時間的・場所的に、事故と一連の出来事と見なせる範囲まで、広く解釈される傾向にあります。